通信制大学の選び方 ~入学後に後悔しないために

はじめに

時間的・地理的な制約が少なく、自分の生活スタイルに合わせて学べる通信制大学は、社会人の生涯学習やキャリアアップに適した教育機関といえるでしょう。しかし、「卒業率10%」「7年も8年もかかる」といった声もよく聞かれます。これから通信制大学で学ぶことをお考えの方に、通信制大学を選ぶポイントや、学習を進めるコツについて書いてみたいと思います。通信制大学を選ぶ

 

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通信制大学の授業形態(※名称は大学により異なります)

  • テキスト履修(T履修、RT科目、通信授業、印刷授業
    指定されたテキスト(教科書)を読み、与えられた設題についてレポートを書き、大学や地方都市に設けられた会場で筆記試験※を受ける。レポート、試験、両方に合格すれば単位が認定される。
    レポートは1単位あたり400字詰め原稿用紙4枚が標準。学習する中で生じた疑問はメールや郵便で質問できるが、返答に時間がかかることも。科目最終試験は大学本部のほか、全国の試験会場でも受験できる。試験はほとんどの場合、持ち込み不可。一般的に通信制大学では、このスタイルで履修する科目が一番多い。

    ※「科目最終試験」「単位修得試験」など、名称は大学によって異なる。
      
  • スクーリング履修(S履修、S科目、面接授業等)
    大学本部や地方会場で開講される講義のことで、面接授業とも呼ばれる。講義の最後に実施される筆記試験か、もしくは受講後に提出するレポートで合格すれば単位認定となるが、最初から最後まで出席していれば不合格になることはまれ。
    社会人学生が受講しやすいよう、多くは土日や夜間に開講される。別途スクーリング受講料が必要な大学が多い。通信制大学を卒業するためにはスクーリング科目を30単位以上(1年次入学の場合)履修する必要がある。
     
  • インターネット履修(メディア授業)
    インターネットを利用して、動画やスライドショーを視聴する。レポートや課題もインターネット経由で提出する科目も。スクーリングと同様に、別途受講料が必要な大学が多い。インターネット科目を履修することでスクーリング科目に替えることが可能な場合もあり、スクーリングを一切受講せずとも卒業できる大学もある。
     
  • 実習科目
    教育実習、養護実習、博物館実習など、教員免許や各種資格を取るために必要な配属実習。実習実施の基準が定められていることも多く、期日までに基準を満たさないと実習ができなくなる。また、大学や実習先への申込手続きなどで早い時期に締め切られるものも多いので、スケジュールを確認しながら計画的に準備を進める必要がある。
     
  • 卒業論文
    大学(学部・学科)によって卒業論文が必修のケース、選択履修のケース、卒業論文が無いケースなどがある。指導教官との間での指導や質問はメールや郵便でのやりとりになる。大学が近ければオフィスアワーなどを利用して直接質問に行くこともできるが、義務付けられている面接指導は普通1~2回。

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この他に、テキストによる履修、スクーリング、インターネット授業のうち2つ以上を組み合わせた履修形態もあります。一般に1つの科目は1つの履修形態でしか開講されませんが、同一の科目がスクーリング履修とインターネット履修で開講されていて選択できる大学もあります。

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通信制大学を選ぶポイント

  1. スクーリング科目の数
    スクーリング会場が遠い場合、交通費や宿泊費用もかさみます。社会人であれば仕事のやりくりも考えないといけません。

    スクーリング科目のメリット・デメリット
    【○】受講して簡単なテスト(レポートの場合もある)に合格すれば単位がもらえるので、学習面での負担は少ない。
    【○】短期間で単位が修得できる。
    【×】スクーリング開講日には無理してでも予定を空けないといけない。
    【×】ほとんどの場合、別途スクーリング受講料が必要。
    【×】スクーリング会場まで遠い場合、交通費や宿泊費がかさむ。

    テキスト科目のメリット・デメリット
    【○】追加費用がかからない。
    【○】自分の好きなときに、好きなペースで学習を進められる
    【×】スクーリング科目に比べて学習負担が大きい。科目によってはテキスト読了だけでも1ヶ月かかるようなケースも。
    【×】レポート作成は、文書を書くのが苦手な人には負担が大きい。

    大学が近くにあり、お金と時間に余裕があるなら、スクーリング科目を多くした方が楽に卒業できるでしょう。
     
  2. 科目最終試験の年間実施回数、最寄の会場までのアクセス
    科目最終試験の実施回数が多いということは、万一試験で不合格になっても、再受験のチャンスが早くやってくるということです。最寄会場が近くにあっても実施回数が少ない場合、遠くの都市まで試験を受けいく羽目になるかもしれません。「近くの都市で」「数多く」試験が実施されていることが望ましいです。
      
  3. 大学やスクーリング会場までのアクセス
    スクーリング科目が多い場合には、大学やスクーリング会場までのアクセスも気にする必要があります。特に、教員免許取得に関する科目のスクーリングは大学本部でしか開講されないことが多いので、大学までの交通費や宿泊費も考えなければいけません。
      
  4. 学生数
    テキストを読んでいて、レポートを書いていて、あるいは試験勉強をしていて、いろいろな疑問が出てくると思います。多くの通信制大学では担当教員にメールや手紙で質問できるシステムがありますが、返事が戻ってくるまでに時間がかかるので、急ぎの間には合いません。そんなとき、学生数の多い大学であれば、インターネット上でも情報が得やすいです。

    また、私の経験から言えば、学生数の多い大学のほうが学生要項やシラバス、大学のウェブサイトも洗練されていて、必要な情報が把握しやすい傾向にあると感じます。
     

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学習を進めるコツ

通信制大学での学習は自分から動き出さないと全く進みません。「通信制大学入学者のうち、卒業できるのは10%程度」と言われますが、最初は誰もが10%に入るつもりで通信制大学の門を叩くはずです。初志貫徹、目標を達成するためにはどのようにしたら良いでしょうか。

【テキストの読み方】
「ベッドに寝転がって斜め読み」では駄目です。机に向かい、要点や疑問点を「読書ノート」に書きながら読みましょう。きちんと読書ノートを作っておけば、後からレポートを書くときや会場試験の準備をする際に大いに役立つはずです。私は読書ノートをパソコン上で作っていました。パソコン上で作れば、レポートや試験対策メモを作る際に「コピペ」が使えるので大変便利です。
 
【参考文献にも目を通す】
シラバスやテキスト巻末に挙げられている参考文献にも目を通しておきたいものです。テキストだけを読んで書かれたレポートより、広い視野から論じることができますから、良い評価も得やすくなります。ただし、特に授業担当者が執筆したテキストを使用している場合、テキストの主張を否定するような内容の参考文献を用いることはやめたほうが無難です(大学教授も人の子です)。
 
【図書館を利用する】

何かと誘惑の多い自宅では、なかなか学習ははかどらないものです。そんなときには、図書館の利用をお勧めします。大学図書館や都道府県立図書館は、持ち込み図書での学習を禁止しているところも多いので、学習場所として利用するなら市町村立などの小さな図書館が良いでしょう。もちろん、レポート作成のために必要になったときには、大学図書館や国会図書館も積極的に利用すべきです。近年では多くの大学図書館が学外者にも貸し出しを認めていますし、公共図書館では国会図書館の蔵書のコピー取り寄せサービスも利用できます。

【学習会に参加する】
規模の大きい通信制大学では、学生会主催の学習会や懇親会が開かれていることがあります。通信制大学では、スクーリング以外には他の学生と顔を合わせる機会がほとんどありません。学習会や懇親会に参加して「ライバル」の存在を意識することで学習意欲も高まるでしょうし、様々な情報やアドバイスも得られるはずです。SNSでも大学ごとのコミュニティが多数作られており、懇親会や学習会を開くなど活発に活動している団体もあるようです。通信制大学は一人で勉強するところと決め込まずに、積極的に「学友」を作りましょう。

【学習計画を立てる】

時間割どおりに決められた授業に出る必要がある通学制と違い、通信制の学習形態は時間も場所も自由に決められます。それだけに、いつ、どの科目を学習するか計画を立てておかないと、1科目も終わらないうちに1年経ってしまったなんてことにもなりかねません。少なくとも、1ヶ月に何単位分学習するかくらいは決めておきましょう。なお、計画通りに進まなくなると学習のペースも崩れがちになりますから、多少学習が進まない月があっても遅れが取り戻せるよう、余裕のある計画を立てることが大切です。

 

注意

  • いくらレポートが書けなくても「コピペ(インターネット上の情報の無断引用)」だけは止めましょう。近頃は大学側もコピペ発見のために専用ソフトを導入するなど対策を進めています。見つかれば、そのレポートが不合格になるだけでなく、停学や退学などの処分を受けることになります。インターネット上の情報でも信頼性のあるものなら、脚注などで出典を明らかにして堂々と引用すれば良いのです。ただし、知恵袋やWikipediaは「信頼性のある情報」とは見なされませんので、引用しないように・・・。

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通信制大学FAQ ~よくある質問~

  • 通信制大学卒業でも大学院に進学できますか?
    もちろん可能です。通信制大学院だけでなく、通学の大学院に進学することもできます。
  • 大学卒として認められますか?
    制度上は正規の大学ですから、前述のように大学院に進学したり、大卒程度公務員試験を受験したりすることが可能です。ただし、一般の大学生と同じように一般企業への新卒採用を目指すなら少なからぬハンデを背負うことになるでしょう。卒業証書には「通信教育課程」と記載しない大学が多いようですが、卒業証明書や成績証明書には「通信教育課程」と明記されます。
  • 学割は使えますか?映画館は?
    学割はスクーリングや科目最終試験受験など、学習に必要な場合のみ発行されます。通常の大学のように、帰省や旅行を目的として学割を使うことはできません(教育実習のための発行も不可)。映画館は窓口で学生証を提示すれば大学生料金で観ることができます。
  • 入学試験はありますか?
    一般の大学で行われるような学力試験はありません。入学資格があり、入学書類に不備がなく、入学費用が振り込まれていれば、誰でも入学できます(ただし、一部の大学では小論文や面接による選考を行っています)。なお、通信制大学院では学力試験を含む入学試験を受ける必要があります。
  • 現在他大学に在学中ですが、入学は認められますか?
    大学生には正科生(卒業を目指すコース)と科目等履修生(必要な科目のみ履修するコース)の2種類があります。複数の大学に正科生として在学することは認められません(二重学籍の禁止)が、正科生が他大学の科目等履修生になることは、双方の大学が認めていれば可能です(大学によって扱いが異なります)。
  • 単位を取るのは難しいですか?
    単位修得の難易度は大学・科目により千差万別です。「ある科目は1週間で終わったが、別の科目には3カ月かかった」なんてことも珍しくありません。必修科目であれば是非もありませんが、選択科目については早い時期からスクーリングや学習会で情報収集をして、いわゆる「楽勝科目」を探すのも一つの手です。
  • 卒業は難しいですか?4年で卒業できますか?
    通信制大学で学習を進めるには、強い意志と明確な目標が必要です。4年で卒業できる人は10~15%程度と言われます。一般の大学なら、授業に出てさえいれば講義内容は耳から目から勝手に入ってきますし、欠席が続けば親切な大学からは電話がかかってきます。しかし、通信制は入学後に段ボールいっぱいのテキストを送りつけてきて終わりです。たとえ1年間段ボールを開けずに過ごしても大学からは何のアクションもないでしょう。しかも通信制では、必ずしも学習に集中しやすい環境ではない「自宅」で、さまざまな誘惑に打ち勝って自ら机に向かう必要があります。仕事との両立を目指す場合には、学習時間の確保も難しい問題です。
    「学力的に厳しいから通信制で」「とりあえず大卒資格が欲しいから」といった消極的な動機では、目標を達成することは難しいでしょう。

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通信制大学の情報が得られるウェブサイト

最後に、通信制大学の情報が得られるウェブサイトをいくつかご紹介します。
 
私立大学通信教育協会
私立大学通信教育協会非加盟の大学・大学院(リンク集)
ランドマーク大学ガイド

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このノートが、あなたの通信制大学での学習の一助となれば幸いです。
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