教員になりたい社会人のための教員免許取得法

 

はじめに

「教員免許を取って教員になりたい」という社会人の方からの質問をよく見かけます。しかし、働きながら教員免許を取り、教員採用試験に合格することは簡単ではありません。ここでは教員免許を持たない社会人が教員を目指す上でのポイントを記します。

※ 現役大学生の方はこちらをご覧ください。

 

 目次 

A 教員免許を取得する
   A00 最終学歴が四年制大学卒以外の場合
   A01 大学選び~出身大学か、他大学か
   A02 通信制大学での免許取得~仕事と学業の両立は可能?
   A03 大学院での免許取得~遠回りになるケースも
   A04 必要な教員免許と同校種他教科の教員免許を持っている場合
   A05 必要な教員免許と異なる校種の教員免許を持っている場合
   A06 工学部出身で、高校教員志望の場合
B 教員採用試験を受検する
   B01 教員採用試験とは
   B02 いつから受検できるか
   B03 社会人選考の利用価値
   B04 採用後の仕事と職場

 

A 教員免許を取得する

教員になるには教員免許が必要です。教員免許を取るには大学に編入学し、定められた単位を修得する必要があります。しかしその前に、確認しておいて欲しいのは出身大学(で在籍した学部・学科・コース。以下「出身大学」と記す。)での単位修得状況です。知らず知らずのうちに出身大学で教員免許取得に使える単位を取っていたかもしれません。出身大学で「学力に関する証明書」を発行してもらい、編入先の大学に提出しましょう。編入先で必要な単位数が多少減るかもしれません。
 

A00 最終学歴が四年制大学卒以外の場合

教員免許には専修、一種、二種の3区分があり、それぞれ大学院修士課程修了、四年制大学卒、短期大学卒であることを基礎資格として定めています。高校の教員免許には二種がありませんので、高校教員になりたいなら四年制大学を卒業する必要があります。短大卒・専門学校卒であれば、2年次または3年次に編入学できる場合もありますので、出身学校と編入学予定の大学に問い合わせてみましょう。

最終学歴が中学校卒(高校中退)の場合、大学に入学するには高卒程度認定試験を受けるなどして、高卒資格を得る必要がありますが、一部の通信制大学では「特別生」「特修生」「本科入学資格コース」などの名称で、高卒資格を持たない人に自大学への入学資格を与えるためのコースを設けています。
 

A01 大学選び~出身大学か、他大学か

大学で単位を取る方法として、編入学して正規の大学生になる方法と、科目等履修生として必要な科目のみ履修する方法があります。大卒者が教員免許を取得するケースでは、再度大学を卒業する必要はないので、科目等履修生でも良いように思えます。しかし、ここで問題になるのが教員免許取得に欠かせない教育実習や介護等体験(高校免許のみ取得の場合は不要)などの実習科目です。ほとんどの大学は科目等履修生に対する教育実習や介護等体験の履修を認めていません。もし実習生が実習先でトラブルを起こすと大学も責任を負うことになるため、学生の質を保証できない科目等履修生に大学の看板を背負って実習へ行ってもらう訳にはいかないという大学側の事情によるものです。したがって、教育実習と介護等体験が共に履修済みでない限り、大学に編入学する必要があります。

ただし、出身大学の科目等履修生になる場合には、例外的に実習科目の履修を認めている大学もあります。出身大学で必要な教員免許が取得可能な場合は、出身大学に問い合わせてみるのも良いでしょう。

A02 通信制大学での免許取得~仕事と学業の両立は可能?

大学既卒者が教員免許取得をめざす場合、通信制大学を利用するのが一般的です。通信制大学は、費用が年間20~40万円程度と低廉である上、学習する時間や場所の制約が少ないので、働きながら教員免許取得を目指す社会人には好都合です。

※ 通信制大学についてはこちらもご覧ください。

ただし、2年目以降に実施する教育実習(2~4週間)と介護等体験(7日間)がここでも障害になります。いずれも実習期間中はフルタイム勤務と同様に拘束され、しかも実施時期は自分で選べません。数週間連続して仕事を休めない限り、教育実習前に現在の仕事は辞めざるを得なくなります。「今の仕事を続けながら教員免許をとり、教員採用試験に受かったら退職」というプランは、教育実習と介護等体験の問題をクリアしない限りは「絵に描いた餅」です。

教員免許(一種)を取得する場合、最低67単位(幼稚園教諭は59単位)が必要で、カリキュラム上は最短2年間で取得が可能です。しかし、多くの通信制大学では3月末に単位認定を受けるためのレポート提出締切りが10~11月に設定されており、在学期間2年間といっても、実質的な学習期間は1年半しかありません。一般に、通信制大学では1単位につき400字詰め原稿用紙4枚分のレポート提出を求められます。67単位を取るためには単純計算で原稿用紙268枚分のレポートを書かなければなりません(スクーリング科目や実習科目もあるため、実際には200枚前後になるでしょう)。通信制大学のパンフレットには「2年間で高等学校教諭免許状(○○)が取得可能」などと夢をふくらませるようなことが書かれていますが、現実には、仕事を続けながら1年半で67単位を修得することは大変な困難を伴います。一歩を踏み出す前に、そのことを十分に理解しておく必要があります。 

A02-注1 放送大学では教員免許の新規取得はできない

  • 教員免許を持たない人が新たに教員免許を取得する際、放送大学の単位は使用できませんので注意が必要です。ただし、後述【A04】の同校種他教科免許の取得や、【A05】の隣接校種免許取得の際には使用可能なケースもあります。

 

A03 大学院での免許取得~遠回りになるケースも

「大学院で教員免許は取れないのか」という質問をときおり見かけます。確かに免許取得が可能な大学院もあります。しかし、教員免許を持たない人が、修士の学位と専修免許状の両方を2年間で取得することはほぼ不可能です。

前述の通り、一種免許状の取得には67単位が必要です。この67単位は大学院(修士課程)の修了に必要な単位とは別個に、学部課程で取らなければなりません。先に「仕事を続けながら1年半で67単位を修得することは大変困難」と書きましたが、大学院で免許を取得するには、この67単位に加えて、大学院修了に必要な単位の修得と修士論文の作成という重荷を背負うことになります。到底、仕事を続けながら2年間でこなせるメニューではありません。どれほど頑張っても3年間、一般的には4年かかると考えるべきでしょう。

それでは、4年かかることを覚悟すればどこの大学院でも教員免許が取れるかというと、そうではありません。

大学院の入学案内に「高等学校専修免許状(国語)が取得可能」と書かれているとします。ほとんどの場合、それは高等学校一種免許状(国語)を既に所持していることを含意しています。一種免許状の取得に必要な科目は一般に学部課程でしか開講されていません。しかし、大学院は本来研究を行う場であり、教員養成の場ではないという考えから、大学院生が教員免許取得に必要な学部科目を聴講することを認めていない大学院も多いです。その場合、その大学院で一種免許状を取ることはできませんし、当然専修免許状取得も不可能になります。

なお、通信制大学院で、大学院に在籍しながら一種免許状取得に必要な学部科目を履修できるのは、現在のところ佛教大学通信制大学院だけのようです。

結局、大学院で4年かけて教員免許を取るということは、学部3年次に編入して2年間で一種免許状を取得後、大学院を2年間で修了するのと同じことを、大学院に籍を置いたままやっているに過ぎません。一般に大学院の学費は学部よりも高いですから、3年間で修了できる自信が無いのなら、一種免許状は学部で取ったほうが良いということになるでしょう。

A04 必要な教員免許と同校種他教科の教員免許を持っている場合

必要な教員免許と持っている教員免許の校種が同じ場合、たとえば高校国語免許を持っているが高校の英語教員になりたいという場合。この場合、同校種他教科免許の取得(教員免許法別表4)を根拠に、大学で24単位(中学校の場合は28単位)を修得すれば、高校英語免許が取得できます。教育実習や介護等体験は必要ありません。最短で6ヶ月間(大学によっては最短1年)、費用は通信制大学の場合20~40万円程度です。

A05 必要な教員免許と異なる校種の教員免許を持っている場合

必要な教員免許と持っている教員免許の校種が異なる場合、たとえば、中学校英語免許を持っているが、小学校の教員になりたいというような場合です。所持している教員免許を取った課程(大学・学部・学科)で取得を希望する校種の教員免許が取得可能だったかどうかによって必要単位数が大きく変わります。可能だった場合には教職に関する科目のかなりの部分をそのまま使えますが、そうでない場合には教育職員免許法施行規則第66条の6に定められた科目(日本国憲法2単位、体育2単位、外国語コミュニケーション2単位、情報機器の操作2単位)計8単位以外は原則全て取り直しとなります。

 

ただし教員として3年以上の勤務経験がある場合は、隣接校種免許の取得(教員免許法別表8)という方法で教育実習を実施せずに必要な免許を取得することも可能ですが、そうでない場合は、やはり大学に3年次編入学し、教育実習を実施する必要があります。

なお、このケースでは出身大学で修得した教職に関する科目の単位を最大15単位(高校免許の場合は最大14単位)まで流用できる可能性があります。詳細については下記【A05-注1】をお読みください。

A05-注1 単位の流用について

  • 教員免許法施行規則第6条表備考12、同13」により、所持している教員免許(A)とは異なる校種の教員免許(B)を取る際、(A)取得のために修得した「教職に関する科目」を、(B)取得のための単位として最大15単位(高等学校免許取得時には14単位)まで流用できる可能性があります。

    たとえば「現在の大学では中学校・高校英語の教員免許が取得可能だけど、小学校の教員免許が欲しい」というケースを考えてみます。この場合、現在の大学(A大学とします)で中高英語教員免許を取得すれば、編入先の大学(B大学とします)で小学校免許を取る際に本来修得しなければならない教職に関する科目のうち、最大15単位を履修しなくても済むということです。B大学で履修不要となる科目については、居住地の都道府県の教育委員会に出向いて指導を受ける必要があります。事前に電話で予約し、持参すべき書類等の指示を受けた上で訪問してください。

    なお、この方法は別校種の教員免許を取得していることが前提条件です。「教職課程で一部の単位を修得したが、免許は取らなかった」というケースでは、単位の流用は出来ません。

    また、教育実習は必要単位の全てを流用でまかなうことが原則としてできないため、編入先の大学で教育実習を実施する必要があります。教育実習の実施基準として特定の科目の履修を義務付けている場合は、A大学で同じ科目を履修済みであっても、B大学で再度履修する必要が生じます。

    この方法を使う場合、教員免許申請手続きを自分で行う必要があります(個人申請)。必要な単位をすべて修得して卒業したら、A大学とB大学から「学力に関する証明書」を発行してもらい、その他の書類とあわせて都道府県教委に申請してください。書類に不備が無ければ10日から1ヶ月程度で教員免許が郵送されてきます。

    なお、単位の流用を行うときは次の【A05-注2】も必ずお読みください。

A05-注2 年度末の教員免許個人申請は要注意

  • 3月は教員免許申請件数が多いため、申請から免許状授与まで時間がかかります(3~4月の一時期、個人申請の受付を中止する教育委員会も)。そのため、3月の卒業後に個人申請で教員免許を取得する場合、免許状発行が4月1日に間に合わないおそれがあります。とくに個人申請で取得する免許を使って4月から勤務しようとする場合には注意が必要です

A06 工学部出身で、高校教員志望の場合

教員免許の取得には教育実習が必要ですが、例外的に高校工業免許を取得する場合には、教育実習を含む「教職に関する科目」の全部を、「教科に関する科目」で代替することが認められています(※)。そのため、工学部出身の場合、教員免許を取得しようとする意志がなくても、無意識に教員免許取得の条件を満たしているか、あるいは残り数単位で免許取得な状態になっている可能性があります。

※教科に関する科目については、「職業指導」1単位以上が必修となっています。この科目が未履修の場合、通信制大学では単位修得できませんので注意が必要です。


工学部出身で高校教員を志望する場合、この高校工業免許を利用しない手はありません。同校種他教科免許の取得方法【A04】をお読みください。ただし、東京都を受検する場合などで、高校志望であっても中学校免許が必要な場合は、大学に3年次編入して教育実習を実施する必要があります。

B 教員採用試験を受検する

教員になるには、自治体や私立学校が行う教員採用試験に合格する必要があります。私立学校の教員採用は年齢制限が厳しい場合が多く、学歴が重視されがちであるなど、社会人から教員を目指す場合には不利な点が多いです。ここでは主に公立学校の教員を目指す場合について説明します。


B01 教員採用試験とは

公立学校教員を希望する場合は都道府県教育委員会および政令市教育委員会が実施する教員採用試験を受けます。試験は毎年5月ごろに願書受付、7月に一次試験、8~10月に二次試験(※)が実施されます。二次試験に合格すると採用候補者名簿に登載され、翌年4月1日付けで採用されます。

 

※ 三次試験を実施する自治体もあります。

 

私立学校教員を希望する場合は各学校が実施する教員採用試験を受けます。群馬、東京、静岡、愛知、兵庫、広島、福岡、長崎の各都県では、私立学校協会が教員志望者を対象とする適性検査(有料)を実施しており、各私立学校が検査の成績を参考にして採用する仕組みをとっています。

B02 いつから受検できるか

採用までに教員免許状が取得できる見込みがあれば、受検できます。大学3年次編入ならば、2年目の夏には受検可能です。ただし、自治体によっては「教員免許状取得見込証明書」の提出を求められる場合もあります。見込証明書の発行基準は大学によって異なりますが、順調に学習が進んでいれば教員採用試験の受検には差し支えないはずです。

B03 社会人選考の利用価値

幅広い経験を持った社会人を採用することを目的に、多くの自治体で社会人を対象とした特別選考が実施されています。受検資格や選考内容は自治体によって異なりますが、概ね下記のような内容がよく見られます。

【受検資格】官公庁や民間企業で正規採用職員として連続3~5年の勤続経験

【選考内容】一般教養試験や教職教養試験を免除し、代わりに小論文や面接を実施する

「免除」と聞くと飛びつきたくなるのが人情ですが、調べてみると社会人選考の競争率は一般選考より大幅に高い場合が多く、社会人が優遇されていると考えるのは早計です。状況によっては、あえて一般選考で受検した方が有利なケースもあり得ます。

B04 採用後の仕事と職場

公立学校教員の場合、1年間の条件付採用期間を経て、翌年4月から正式採用となります。大きなトラブルがない限り、希望者全員が正式採用されます。私立学校教員の場合も、最初は常勤講師などの非正規雇用形態で採用され、働きぶりなどを考慮のうえ1年から数年後に正規雇用されるパターンが多いようです。


公立学校の教員採用試験では年齢制限を廃止している自治体も多く、40代や50代の新米教師も見かけます。教員の世界は、一般の企業などと比べると上下関係が緩やかだと言われます。そうはいっても新人は新人ですから、年下の先輩に教えを請わなければならない場面も出てきます。30代後半以上の人は、覚悟の上で転職に踏み切るべきです。


仕事について。小学校では、まず間違いなく採用1年目から学級担任です。中高の場合、1年目は副担任、2年目から正担任になるケースが多いようです。どの学校種でも1年目は「初任者研修」があります。慣れない職場で懸命に仕事を覚えながら、授業もこなし、月に2回程度は研修センターに出張・・・という多忙な日々になります。


教員は、この国の将来を創っていく子どもたちの成長に関わることのできる、やりがいに満ちた仕事です。社会人から教員への転職は簡単ではありませんが、困難を乗り越えてでも目指す価値のある仕事です。このノートが、少しでも教員を目指す方のお役に立てれば幸いです。

 

 

最後に

  • このノートについて分からないことや、もっと詳しく知りたいことがあれば、Yahoo!知恵袋へお寄せください。
  • 不適切・不十分な記述があれば、お問い合わせフォームにてお知らせいただければ幸いです。多くの方のアドバイスをいただいて、このノートを教員志望者にとって有益なものにできればと考えています。
  

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