特別支援学校の教員になるには

はじめに

このノートでは、特別支援学校の教員になりたいと思っている人や興味をもっている人のために、特別支援学校教員になる方法や、仕事の内容などを書いていきたいと思います。

特別支援学校(特支)とは

「特別支援学校」という言葉自体、耳慣れない言葉かもしれません。この呼び方が使われるようになったのは平成19年度からで、それまでは「養護学校」「ろう学校」「盲学校」などと呼ばれていました。

ではそもそも特支とはどのような学校なのでしょうか。以下の条文が特支の目的を簡潔に表しています。

 

【学校教育法第72条

  • 特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。

ひとくちに特支といっても学校の種類によって児童生徒の様子や教育内容は大きく異なります。視覚障害や聴覚障害の学校では、いわゆる普通学校(小学校、中学校、高等学校)とほとんど変わらない内容を教えることもあります。一方で、知的障害学校では高等部の生徒に小学校低学年の内容を教えることもあります。

特別支援学校の教員になるには

特別支援学校はほとんどが公立(都道府県立・市立)です。公立特別支援学校の教員になるには、都道府県や政令市が実施する教員採用試験に合格する必要があります。

 

教員採用試験の受験資格

 教員採用試験を受けるには、なりたい学校の種類(教科)に応じた教員免許を持っているか取得見込である必要があります。たとえば小学校の教員採用試験を受けるには、小学校教諭免許状が必要です。しかし、特別支援学校の場合は事情が少し異なります。

 

 

特別支援学校教諭免許状(特支免許)とは

  • 文字どおり、特別支援学校の教員になるための教員免許です。この免許を取得するには、幼小中高いずれかの教員免許を既に所持しているか、あるいは同時に取得しなければなりません(まったく教員免許を持たない人が特支免許だけを取ることはできません)。

特支免許がないと特支の教員になれない?

  • 本来なら、特別支援学校の教員になるには幼稚園・小学校・中学校・高等学校のいずれかの教員免許に加えて、特別支援学校教諭免許状が必要です。しかし、教育職員免許法には次のような条文があります。
  • 【教育職員免許法 附則第16】
  •  幼稚園、小学校、中学校又は高等学校の教諭の免許状を有する者は、当分の間(中略)、特別支援学校の相当する各部の主幹教諭、指導教諭、教諭又は講師となることができる。
  • つまり、特支免許がなくても特別支援学校で教員として働くことは可能なのです。現実に、特別支援学校において特支免許を持たない教員は珍しくありません。
  • ※特別支援学級の担任になる場合、特支免許は必要ありません。


 

特支教員採用試験の受験資格は以下の3つに大別できます。

1.特支免許を持たないと特支区分で受験できない自治体

2.特支免許を持たなくても特支区分で受験できる自治体

3.特支区分がなく、いわゆる普通学校教員と一括で採用する自治体

 

「1」「2」で中学部・高等部区分で受ける場合、教科別に採用する自治体と、全教科一括で採用する自治体があります。多くの自治体は「1」か「2」です。「2」と「3」は特支免許がなくても受験できますが、「3」では免許がないと特支に配属される可能性が低くなるため注意が必要です。

 

受験資格については教員採用試験実施要項などに記載されています。要項は多くの場合、教育委員会のWEBサイトで公開されています。

 

教員免許を取るには

次の1~4のうち、あなたが該当する項目に進んでください。

【1】まだ大学に入学していない(高校生など)

 小中高いずれかの教員免許と特支免許の両方を取得できる大学に入学しましょう(ほとんどは教育大学や教員養成系学部です)。

【2】小中高いずれかの教員免許および特支免許を取得中あるいは取得済である

 

すでに教員免許の面では十分です。頑張って採用試験合格を目指しましょう。

【3】小中高いずれかの教員免許を取得中、あるいは取得済である

 希望する自治体の受験資格によっては、特支免許を追加取得する必要があります。教育委員会のWEBサイトで教員採用試験実施要項を見て、特支免許が必要かどうか確認しましょう。特支免許の取得方法については下枠内の「特支免許を取るには」をご覧ください。

【4】大学在学中だが、教員免許が取れない学部学科に在籍している

 少なくとも小中高いずれかの教員免許が必要になります。教員免許の取得方法についてはこちらを参考にしてください。また、自治体によっては特支免許も必要です。教育委員会のWEBサイトで教員採用試験実施要項を見て、特支免許が必要かどうか確認しましょう。特支免許の取得方法については下枠内の「特支免許を取るには」をご覧ください。

【5】四年制大学卒だが、教員免許は持っていない

 少なくとも小中高いずれかの教員免許が必要になります。教員免許の取得方法についてはこちらを参考にしてください。また、自治体によっては特支免許も必要です。教育委員会のWEBサイトで教員採用試験実施要項を見て、特支免許が必要かどうか確認しましょう。特支免許の取得方法については下枠内の「特支免許を取るには」をご覧ください。

【6】1~5のいずれにも該当しない

 少なくとも小中高いずれかの教員免許が必要になります。教員免許の取得方法についてはこちらを参考にしてください。教員免許を取るには四年制大学(小中高1種免許)または短期大学(小中2種免許)を卒業する必要があります。また、自治体によっては特支免許も必要です。教育委員会のWEBサイトで教員採用試験実施要項を見て、特支免許が必要かどうか確認しましょう。特支免許の取得方法については下枠内の「特支免許を取るには」をご覧ください。

 

 

特支免許を取るには

  • 特別支援学校教諭免許状(特支免許)を取るには2つの方法があります。
  • 1.大学での単位修得による方法(教員免許法第5条別表第1)
  • 幼小中高いずれかの教員免許を有し、大学で26単位以上(1種免許の場合)を修得することで取得できます。この方法では幼小中高での教育実習とは別に、特別支援学校で2週間の教育実習を実施する必要があります。
  • 2.教員実務経験と単位修得による方法(教員免許法第6条別表第7)
  • 幼小中高いずれかの教員免許(普通免許状)を有し、いずれかの学校の教員(講師含む)として3年以上の実務経験がある場合、大学等で6単位以上修得することで特支2種免許が取得できます。現職教員であれば、免許法認定講習で単位修得することも可能です。この方法では教育実習は不要です。すでに講師などとして教壇に立っている人の場合、この方法が有用です。
  • 特支免許を持たなくても特支枠で受験できる自治体では、採用後一定期間内にこの方法で特支免許を取得することを条件づけています。

特別支援学校教員採用試験の状況

自治体にもよりますが、特別支援学校枠の競争率は他の校種に比べて低い傾向にあります。下表は平成23年度公立学校教員採用選考試験の実施状況です(文科省資料より)。

 教員採用試験競争率(全国平均・校種別)

最近は大都市圏などで小学校教員採用試験の競争率低下が問題視されるようになってきましたが、特別支援学校の競争率は小学校よりさらに低い状況です。こうした状況も、特支免許所持を受験資格に含めない自治体が増えている背景にありそうです。特支免許所持者と非所持者を別枠で採用している自治体では、非所持者区分の競争率が10倍を超えているところもあります。


 

「手段」として特別支援学校教員を目指している人へ

  • 上で書いたように特支教員の採用試験は競争率が低いため、中学校や高校の教員をあきらめて特支教員へ「志望替え」する人もいるようです。そういう方に一言申し上げておきます。
  • 特支区分で採用されて教員になった場合、人事異動で普通学校に異動することは非常に困難です。自治体にもよるでしょうが、特支教員は不足気味であり、普通学校の教員が特支に「不本意異動」させられた例はいくつも見ましたが、逆は聞いたことがありません。
  • 私個人の感想ですが、特支教員の仕事と中高教員の仕事は似ている部分もあるものの、異なる部分がより大きいと感じています。定年まで特支で働く覚悟がないのなら、低競争率だけに目を奪われて特支区分で受験することは避けるべきです。

ここが違う!特別支援学校と「普通学校」

最後に、いわゆる普通学校と特別支援学校の違いについて取りとめなく挙げておきます。

※あくまで私の勤務していた学校の状況です。地域・学校によって状況が異なることをご了承ください

 

免許教科以外も教えます

中学校や高等学校では、国語免許しか持たない教員が数学を教えるということは普通ありません。しかし、知的障害児対象の特別支援学校では普通のことです。現に、社会免許しか持たない私も、国語や数学を担当していました(させられました)。ただし、美術や音楽、保健体育などでは免許を持つ教員がT1(主として授業を行う教員)になるのが一般的です。

 

免許のない学部にも配属されます

小学校免許しかない教員が中学部に配属されたり、中高免許しかない教員が小学部に配属されたりということも普通にあります。免許がない学部に配属された場合は臨時免許を取得することになります(申請費用は自腹です!)。校内で年度替わりに他学部に異動になることもあります(学部間異動)。一般に、人気は高>中>小なので、高から小への学部間異動は実現しやすく、小から高、中から高などは難しいようです。

 

土日はしっかり休めます

中学校や高校では部活動の指導のため、土日も多くの教員が学校に出てきています。特別支援学校にも部活はありますが、休日の練習はありませんので、土日に出勤している教員は多くありません。

寄宿舎での宿直業務があるかも…?

自宅が遠く通学が困難な児童生徒のために、寄宿舎が併設されている場合があります。寄宿舎を利用している児童生徒は、金曜日には自宅に帰り、月曜の朝にまた学校にやってきます。月曜日から木曜日の夜は教員が交替で舎監として寄宿舎に泊まり込みます(もちろん舎監以外にも、複数名の寄宿舎指導員が宿直をします)。宿直業務を命じられる教員は、「男性のみ」「男性も女性も」など、自治体や学校によって形態は様々です。

給食があります

小学部・中学部はもちろん、高等部でも給食があります。児童生徒の実態や学校の施設状況によって、教室で食べる場合もあれば、ランチルームに集まって食べる場合もあります。

お給料がちょっといい・・・かも?

特別支援学校に勤務する教員や、特別支援学級担任の教員に対して、特殊勤務手当を支給している自治体もあります。ただ、最近は手当を支給しない自治体が増えてきているようです(私の勤務県も手当ナシでした)。

あとがき

このノートは、私が以前に知的障害特支で数年勤務した経験から書きました。聴覚や視覚では勤務経験がないので、それらについての記述が少ない点はご容赦ください。 また、特別支援教育についての知識も十分でないため、内容的に不十分な点も多々あると思います。お気づきの点がありましたら、アドバイス機能でご指摘いただければ幸いです。 

 

ご質問・アドバイスをお寄せください。

  • このノートについて分からないことや、もっと詳しく知りたいことがあれば、Yahoo!知恵袋へお寄せください。
  • 不適切・不十分な記述があれば、お問い合わせフォームにてお知らせいただければ幸いです。多くの方のアドバイスをいただいて、このノートを教員志望者にとって有益なものにできればと考えています。